『サマーウォーズ』感想(2)ネタバレ有り

まず、前回書き忘れた良い点を1つ書いときます。

5)富司純子さんの好演
声優初挑戦らしいですが、昔の東映ではアフレコが基本だったので、台詞を後から吹き込むのは慣れていたとインタビューで答えているのを読みました。やはりキャリアのある人は違うなあと思います。
フラガール』の時も思いましたが、この人が出ると画面が引き締まるようです。声だけでもかなりの存在感です。

あと、仲里依紗さんが「えええっ!」と思うような役をあてています。全然分からんかった。


とまあ、良い点は以上。こっから「これはどうかなあ」と思う点を書きます。思いっきりネタバレするので、これから観る人は注意してください。


■悪い点

1)世界の直面する危機がいまいちピンと来ない。
ケンジが2056桁の数値から成る暗号パスワードを解いてしまったために、仮想世界"OZ"が人工知能"ラブマシーン"に乗っ取られ、世界の交通網や水道など、インフラが干渉されて大騒ぎになる。交通渋滞のために緊急自動車は全く稼働せず、水道管があちこちで破裂する。
でも、死者は0人。ありえん。現実なら絶対死人が出てる。これは、もし死者とか出たら、ケンジの責任がシャレにならないほど重くなるので、脚本上の都合でこうしたとしか思えない。
おまけに死に至るほどの危機ではないと観客は知らされるので、危機感が伝わらず緊張感は削がれる。
あとでこの騒ぎがケンジのせいではないことが明らかになるんだから(結局解析値の最後一桁が間違っていた。ケンジはアバターを乗っ取られただけ)、ここは犠牲者が何人も出ている惨事にしてもよかったのでは?


2)仮想空間にアクションを限定したこと。
細田監督もインタビューで言っていた「ドラマは現実世界で、アクションは仮想世界で描く」と言う点なんだけど、成功しているとはいいがたい。
ご親戚一同の中に数馬君という小学生がいるんだけど、実はこの子が"OZ"マーシャルアーツゲーム世界チャンピオンの"キング・カズマ"である。この"アバター"による格闘がアクションのメインになるんだけど、画面の向こうで"キング・カズマ"が"ラブマシーン"にいくらこっぴどくやっつけられても、画面のこっちの数馬くんはピンシャンして、ただ悔しがっているだけ。
それでは緊張感もわかないっしょ。


3)栄ばあさんの電話攻撃
前半、世界中が大騒ぎになった時、栄おばあちゃんはあちこちに電話して、各界の実力者や政界の偉いさんに「励まし」の電話をする。
これって、栄おばあちゃんは政界のフィクサーってこと?
つか、国中大騒ぎになってるときに「あんたならできるよ」なんて電話かかってきたら、俺なら「今やってるよ!!」てぶち切れます。
ここは「メディアはあくまで手段であり、人と人とのつながりが一番大事」という作品のテーマを明示しときたかったんだろうけど、こっちには「安全地帯から電話してきやがって、いい気なもんだ」としか思えなくなってしまう。


4)侘助が悪いんか?
序盤、死んだ大じいさん(栄の夫)の隠し子、侘助が登場するんですがこの人、栄ばあさんの財産を勝手に換金して持ち逃げし、アメリカへ渡ったという設定です。アメリカで何をしていたかというと、人工知能"ラブマシーン"を開発してたんですね。
で、なんでそんなことしたかというと、自分を引き取って我が子のように育ててくれた栄ばあさんに、自分の力でお金を稼いで恩返ししたかったからだと。そんな侘助に栄ばあさんは、薙刀をつきつけ「死ね」と言い放ちます。
これ『エデンの東』ですよね?

ばあさん、ちっとは侘助の心情もくみとってやりなさいよ。これじゃ、お国のフィクサーアウトサイダーを許さんのだという、結局、体制側目線の映画だっていう図式になっちゃうじゃないの。


5)ナツキのキャラが立ってない。
ケンジのあこがれの女の子、ヒロインのナツキっていうのが、いったいどういう人なのか、よくわからない。
登場シーンが自転車の立ち漕ぎで全力疾走というもんなんで、活発な子というのはかろうじてわかる。
フィアンセ役としてケンジを雇っておきながら、初恋の人、侘助が登場するとそっちにベタベタ、ケンジやきもきというのは、コメディの1つのパターンなので、ナツキの性格付け描写にはならない。これじゃ、単にヤな奴。
ナツキが大口開けて小さい子供のように泣き出すシーンは、「(めいっぱい背伸びして)大人びた女の子」という性格を、映画が明示していないので感動が無い。
何より、クライマックスでナツキが"OZ"の花札ステージで活躍するシーンも、それまでナツキが花札が異様に強いという伏線が無いので、唐突に思える。
せめて、花札が本当に強いのは侘助なんだが、クライマックス時は手が離せないので替わりにという描写があれば、まだしもだった。
せっかくキャラも可愛いし、声を演じた桜庭ななみが好演しているのに、もったいない。


6)ケンジの活躍はビジュアルで表現しにくい。
数学オリンピックにあと一歩で出られなかったが、数学の天才であるケンジ。
主人公の活躍は、数値を紙に書き取って演算。めっちゃ地味。
最後のクライマックスでの2056桁の数値を暗算で計算するというはなれ技も、絵にするとただ単にテンパって目を回しているだけに見えてしまう。鼻血を吹き出しながらがんばってるのになあ。


7)クライマックスの尻すぼみ感。
A. "ラブマシーン"を"OZ"から隔離するため、"キング・カズマ"が対戦するも敗退。3億人の"アカウント"を"ラブマシーン"に乗っ取られて、より強大化させてしまう。
   ↓
B. 日本の惑星探査船を、世界中の原発のうちの一つに落下させようとする"ラブマシーン"。それを阻止せんと、ご親戚一同の"アカウント"を賭け、花札勝負するナツキ。世界中の人々に励まされ勝利を収め、"ラブマシーン"のアカウントを特定することに成功。
   ↓
C. 弱体化した"ラブマシーン"は、惑星探査船を陣内家に落下させようとする。探査船の軌道を修正して落下地点を逸らそうと、ケンジは"ラブマシーン"のアカウントへ侵入を試みる。パスワード解析のため鼻血吹きながら、ケンジ、2056桁の数値を暗算。

あきらかにB→Cはスケールダウンして、おまけ感が拭えない。


8)ラストの余韻の無さ
危機を回避して喜ぶケンジと陣内家の面々。ナツキからほっぺにチューされ、鼻血吹き白目向いて昏倒するケンジ。
映画終わり。
せっかく、ドラマティックな展開が途中にあるんだから、もうちょっと余韻のあるラストシーンにはできなかったものか。


9)結局、親戚一同「一致団結」というのがネック。
脚本上、親戚一同が一致団結して脅威に立ち向かうという点に固執しすぎたんではないかと思う。そのため、ナツキやナツキに"アカウント"を託す親族ご一同にクライマックスを担わせなければならなくなり、結局散漫で尻すぼみになってしまった。
ここは直接、脅威に対決するのはケンジとカズマに絞りそれをサポートする陣内家の一部の人々、最初は対決に反対してたあとの面々は、ハラハラしながら見守り応援するようになる、というだけで良かったんではないか?テーマが「人と人とのつながりの大切さ」「人を励ますことの大切さ」にあるんだったら、それで充分だと思う。



伏線やキャラの性格付けがあいまいで、いい映画になるはずだったのに惜しい出来となってしまった。
これだけ欠陥があっても、結局、演出・美術で見せきってしまう、細田監督の力量は恐るべし。
脚本さえもっとブレーンを集めて煮詰めていれば傑作になったのになあ、と思う。


はい、これで感想終わり。日曜の朝8時から起きて、いったい何をやっているんだ、俺は?ゼイゼイ…………。