「夕凪の街 桜の国」こうの史代 双葉社

映画秘宝」2005年1月号に作者のインタビューが掲載されており、今日、梅田の書店で探して買ってきました。

「夕凪の街」を地下鉄の中で読んでしまい、泣きそうになり慌てて次の駅で降りました。
帰り道、歩きながら涙が出てきて仕方が無かったです。

広島への原爆投下から10年後の昭和30年、被爆者女性である平野皆実(みなみ)が原爆の後遺症で死ぬまでの数日間の物語「夕凪の街」。舞台は現代へと移り、皆実の弟、旭(あさひ)の娘七波(ななみ)の小学生時代を描く「桜の国(一)」と、28歳になった七波が近頃怪しげな行動をとるようになった父親を尾行する話「桜の国(二)」の3話で構成されています。

いずれも大上段に原爆の悲劇を詠ったものではなく、やさしい画風の静かな語り口は日常マンガを読むようです。しかしこの作品は、原爆の直接的な威力のみならず、被爆者の「愛する人々を見捨てて自分だけ生き残ってしまった」という罪の意識や、いつ発症するかわからない後遺症の恐怖、そして被爆者差別など、わたしたちが知らんふりをしてきたさまざまな問題を直球で投げかけてきます。わたしたちが「平和」や「生きること」について考える試金石となる作品だと思います。

ちゃんとした形で書評したいのですが、ストーリーの紹介無しにそれをするのが難しいのと、多くの方がこの作品についてBLOGなどで語っておられるので、あたしは特に印象に残っている部分について書きます。

「夕凪の街」で同僚の打越から愛を告白され、それを皆実が受け入れた翌日、皆実の原爆の後遺症が発症します。
体がだるくなり、立つことも食べることも出来なくなり、黒い血を吐きます。ついには目も見えなくなります。意識は混濁し激痛が襲ってくるときのみ意識を取り戻します。
目の見えなくなったあたりから、白コマにネーム(セりフ)のみの描写になり、逆に圧巻です。
数コマの白コマののち皆実の意識に言葉が浮かびます。



『嬉しい?』



『十年経ったけど
原爆を落とした人はわたしを見て
「やった!またひとり殺せた」
とちゃんと思うてくれとる?』



このへんで泣きました。何回読み直してもそのたびに新しい発見のある作品です。

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)